『COCHI』の宮崎マスターは無類のジャズ好きである。しかし、レコードを何千枚も持っていて、録音年月日からパーソネルまで、スラスラと答えるというようなタイプでは決してないと思う。略歴からもわかるとおり、彼は、長きにわたって上質のジャズを我々ファンに提供し続けてくれたのである。
そんな彼が、一時的とはいえ、ジャズライブの現場から遠ざかったことはジャズファン、宮崎ファンには寂しい出来事であった。
しかし、いよいよ、彼はライブシーンに帰ってきたのである。昨今の厳しい経済状況の下、難しい問題も多々あると思うが、開店1周年を目前にして、岡 淳(ts)トリオによる初ライブを行い、大成功をおさめた。『COCHI』では、今後も週末を中心に、コンスタントにライブを続けて行くという。
宮崎マスターは、ライブを始めた理由として『今まで世話になったミュージシャンに恩返しをしたい』と語っている。自身がブッキングし、すばらしい演奏を聴かせてくれたミュージシャン達に、少しでも演奏する場所と機会を増やしたいというのだ。それも、出来るだけミュージシャンの立場に立って、採算を度外視するとさえ言い切る。
そういう話をするとき、いつも笑みを絶やさず、気配りを忘れない、ひょうひょうとした雰囲気の彼はいない。そこには、ジャズを愛し、盛り立てて行こうという、骨太な意志を表情にみなぎらせている男の顔がある。
では、そういったマスターが始めた『COCHI』とは、いったい、どういった店なのだろうか、宮崎マスターは『この店の売りは俺だけだ』と笑う。照れと自負が同居しているのだろう。もちろん、マスターの人柄を慕って、地元の小岩のみならず、遠方からも足を運ぶお客さんも多い。しかし、それだけではない、手ごろな(むしろ安すぎる!)値段で美人ママの手料理でお酒が楽しめるのだから。
ライブのないときでも、ぜひ一度『COCHI』に立ち寄ってもらいたい。
そこには、ジャズと酒をこよなく愛する男がいる。
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